良日/ヨルノテガム
 
一日中、果実遊びをして
手がスベスベと、そして匂う
帰り道は昔話のようなカラスが鳴いて、
石を投げつけてやった

ふと見ると小指に葡萄がひとつ
まだ刺さっていて
それは黒真珠のようでした
明美ちゃんの仕業だな

家へ帰ると偶然 食卓は果実づくしで
妻は モリモリとお猿のように
リンゴとみかんを交互にかじり捨てていたのでした
後ろから 手で目隠しをして
妻に だーれだ とお茶らけると、

牛乳屋さん、と

元気よく答えたので
私は牛乳屋さんになり、妻の口元へ
それを押し流してやるのでした


その次の日からというもの
私の牛乳屋さん人生はスタートしていて、
朝早く、それはもう朝早く
カラカラと瓶音をたてて
車のエンジンを吹かしているのでした

白寂の中、配達も終わりにさしかかる頃
フロントガラスに小石が落ちてきて、嫌な音を立てたので
止まると

窓の向こうに、窓の向こうに

ヒビ割れた、富士山が見えたのでした














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