流れ行く川のほとりに/茉莉香
 
名も知らない川がありました
少女は毎日その川を見つめ
自分がいつか下流まで歩くことを夢見て
自分の部屋の南側にある小さな窓から
毎日川を見つめていました

川はいつもとうとうと流れ
美しい花々が周りを囲み
少女が母親に殴られても
その姿を変える事はありませんでした

ある日煙草の火で手を焼かれたとき
川が囁きました
いらっしゃい こっちよ
少女は出たこともなかったお家から
初めて 歩き始めたのです

空気は冷たくひんやりとひりりとした手を癒し
心が弾みました
川の水はきらきらと日の光に輝き
すぐに疲れてしまった足を浸すと
そのまま寝てしまいそうになります

うっとりとほとりで目を瞑っていたのに
息が突然できなくなりました
お水が鼻と口から入り
少女はそのまま川に浮かびます

少女は両親を恨むことはありませんでした
大好きな川に流れながら
やっと自由を手に入れることができたのですから
なぜ生まれてきたのかなんて
考えることももう しなくていいのですから

戻る   Point(2)