旅路/たもつ
 
りと
長距離バスが発車し
顔を上げることもできずにただ見送っている

ほの暗い車中
一番後部の座席には
幼いころの僕が座っているはずだ
出発間際に手渡した赤い薔薇を抱いて

一時間後
幼い僕はトゲを指に刺し
その痛みにじっと耐えていることだろう

冬の本当の寒さなど未だ知らずに
二日後に花が枯れる理由すらわからずに



(四)手紙

暗くなれば明かりを灯し
腹が空けば飯を食わなければならないほどに
ここは遠い

一人きりの部屋で
誰にも気付かれないよう咳などをする

寒い地面では
霜柱が立ち始めている明方


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