旅路/たもつ
(一)すべてのものは
日が翳っている
四月は末日
冷たい図書館の
その片隅で
ある日、男が生まれ
ある日、死んでいった
たった二行の
歴史書が
誰にも読まれることなく
広げられている
風でページが捲れると
すべてのものは
初夏に向かって
進行していた
(二)記憶
八月に
木の葉から漏れる光は
古い水道管を照らし
その脇ではゴムが曲がっている
中庭を
これ、かわらなーい
これ、かわらなーい
大声で走り回っていたのは
誰と誰だったのだろう
(三)生きていく
深夜のターミナルからゆっくりと
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