忘却について/和泉 輪
夕暮れの残照に透きとおる
樹々の枝葉のように拡がった
私の末梢
手のひらの静脈
幾度となく
訪問する季節を測り
文字にして書き写し
そしてこの夜の連なりへ
伸ばされた白い片腕から
一羽の伝書鳩が飛んでいった
※
もれなく失効する日々に
いつも何かを忘れている
今日の暖をとるために
無記名の母子手帳を火にかけた
一杯の湯を沸かすために
貴女の写真を火にかけた日もあった
※
夜は音もなく終着し
夕べの夢を忘れながら
私はまた目覚める
一羽の鳩が窓辺に止まり
自分の足に触れろと言う
そこには私の履歴書が結びつけてあり
私はひとしきりそれに目を通すと
燃やし
その火を使って
朝食を作った
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