訪問される/楠木菊花
 
真夜中は部屋の小さな隙間からやってくる
なにも味方につけずに足音もさせずに入ってくるくせに
誰の目にも留まるようにわざとらしく大きく泣いて見せたり
吐息を漏らしたりしてここに大きな存在がいるのだと
みせつけようとする

部屋の主の指先はどこの小鳥よりもおしゃべりで
キーボードの前でピアニストの指先と同じに軽く弾む
望んでいることは同じ
言葉という音符を駆使して壮大な夢物語を奏でたいと
拍手喝采を求めているただのロマンチストだ

ただの望み
だけどそのただの望みに取って代わられそうになる夜半前
形を知らずにエネルギーだけが体を飛び出して流れていこう
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