初めての記憶/Rin.
 

喫茶店の中は
小さなロッジを思わせた
ランプの橙色の明かりは
それでもやはり薄暗くて
カウンター席の後ろでは
まだしまわれていないストーブ
季節に似合わなくても
この店には似合っていた

マスターのおじいさんは
優しい目をしていた
黒い目だったというのが事実なのだけれど
私の記憶の中ではいつまでも青い
夜になる一歩手前のように深く青い

私はいつもバナナジュースで
父はいつもコーヒーだった
コーヒーのことをどうしてホットというのか
一度だけ考えたことがある
その日も私はバナナジュースで
摘んできたたんぽぽを
指先でくるくる回した

たんぽぽの茎を裂
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