よもつしこめになるために/佐々宝砂
壱 うきしま
ねこやなぎ
あまごのせなの朱の星
春あさい湿原の灰色の水
地平線すれすれにみえる赤い月
鳥たちはいっせいに
北にむかって飛んでゆき
わたしは浮島にのって
ゆるゆるとすすんでゆく
踏みしだかれた枯草
黄ばんでしまった手紙
かさかさ乾いた蛇のうろこ
とろけてしまった心臓
そんなものどもを携えて
あちらの岸にわたしは
この湿原がうつくしい緑になるまえに
あなたがわたしを知るまえに
湿原を抜ければ
そこは広い河
てらてらする油脂を浮かべたその水に
あなたの影は映らない
弐 橋をわたる
橋のたもとに眠
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