「羽の無い天使」/たけ いたけ
 
「羽の無い天使」



高架下に羽の無い天使が立っていた。
そこで住んでいる風だった。



羽の無い天使
と目が合うと
―わたしは人間です―
とわざわざ言った
のがチャンチャラ可笑しい
ので
―僕は天使とか悪魔とか
 アイドルみたいなものは嫌いなんですよ―
と言ってやった
らまた
―わたしは人間です―
と言う
のがなんだか憐れ
になって
―今夜、僕の家に遊びに来る?―
と言うと
わたしは人間です
とそっぽを向いた。


全身の血が沸き立ったかと思った
ら下唇を噛んでいるらしきその口
目掛けて力いっぱい右手を振り下ろしていた。


天使は
倒れていた。



夕方
お爺ちゃんとお婆ちゃん
とお父さんとお母さん
とお姉さんと妹とお姉さん
の赤ちゃんの夕食の買い物
を隣の学区内のスーパーで済ませた僕
は何故かいつもより遠回り
した帰り道
に羽の無い天使が歩いていた。


右の頬にあのアオアザをつけて歩いていた。

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