その日、屋上の扉があいていたんだ/たりぽん(大理 奔)
 
手すりのない屋上で
そらをとりもどす、わたしがいる
限界線(ちへい)に浮かぶ遠い筋雲の
気流の音に耳をすます
わたしがいる
まぶたの裏に
真昼の月を新月と焼き付け
まぼろしではない見えないものに
そらをとりもどす、わたしがいる
ふいに街の猛禽が
ビル風を上昇気流と叫び
びゅうと、そらをとりもどす
わたしがいる

   誰にも、言葉を預けたくない
   つたえたい胸の温度の
   灼ける音に耳をすます

頬がつめたい、ゆびさき
まぶたの裏に
真昼の君をほんとうと焼き付け
とどかない、いとしいものに
そらをとりもどす、わたしが

なくしていく
なくしていく
ビル風を上昇気流と
猛禽の背中に
びゅうと、そらの
かわりに失っていく
ゆびさきからそらへ

そらを、とりもどす
わたしが



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