偽りの境界線の上で/AKiHiCo
 
 睡蓮が開く音。薔薇が散る影。瞼をゆっくり開ければ、そこはいつか見た部屋が拡がる。
 とても蒼い水晶か硝子で出来た寂しい部屋。向かい合う鏡の中の僕はどうして微笑んでいるの。どれくらい眠り続けていたのだろう。時計はいつの頃かで時間を進めるのを止めてしまっているようで、針は廻ろうとしません。僕しかいない部屋。音も止んでここを満たすのは、あの日の悲しみのみだけど、あの日っていつの事だったか思い出せない。僕は一体誰なの。
 ふと鏡の前の僕と目が合った。あれが僕の姿だとすれば随分髪が伸びている事になる。椅子から立ち上がりたいのに動けないでいるのはどうして。曖昧な誰かと僕の境界線がどこかで交わって僕が僕な
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