話せない女/九谷夏紀
 
せば話すほど
私、私から離れてゆく
私、君からも離れてゆく
君にはわからないでしょう?
君には陰りの日もなくて
君は影を知る気もないから
けれど
私は君に影を求める
見当たらなければ影を作る
私はその影を私なんだと思うから
私は君から何かを奪いたいから
それでも私
きっと君に光も与える
話せないかわりにほほえむよ
話さなければ
話せなかった子供の頃のようにほほえむことができるの
ねえ
それじゃあだめかな
そのうちきっと
言葉を覚える
まずは君の言葉から
そのうち私の言葉が
それじゃあだめかな
そしたらきっと
ほんとうの君に近づけて
ほんとうの私が戻ってくるのに

戻る   Point(3)