クチナシの木の満開の下/蒸発王
 
梔子(くちなし)の満開の下へは
決して近寄ってはいけない



『クチナシの木の満開の下』




子が出来ぬ
という理由で離縁された女は
梔子の花しか食べられなくなった

理由は知れぬ
けども梔子の花であれば
花弁1枚であろうが
がくであろうが
萎れていようが
とにかく少なくて腹に溜まったので
夏の間
女は梔子を沢山とって
壷にしまい充分な分だけ
少しずつ食べた
八重咲きの梔子の大輪ばかりであった

雪が孵って
春がさえずり
夏のつま先が見える頃
女は又
男と出会い
夫婦になった
女の花食いの性は
嘘の様に直った
過去の傷
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