人皆若狂/佐々宝砂
お嬢様、今は寒う御座いますが。
雪虫舞う空は御納戸色で御座いますが。
お顔をお上げ為さいませ、
やがては春が来ましょうとも。
お嬢様の指の白いことと申しましたら。
全く蝋燭の様で御座います。
その頸の儚く細いことと申しましたら。
真に白鷺の様にて御座います。
春過ぎて夏が来たならば、お嬢様、
恋しいお方を訪ねましょうものを。
蚊遣りの杉に目を細めながら微笑む、
お嬢様がたの姿が目に浮かびまする。
何も怖いことは御座いませんよ。
心配にも及びませぬ。
小さな窓からも、
細い障子の隙間からも、
我等は入り込めます、
およねも共に参りますものを。
さてお嬢様、時が来たならば、
人皆狂うが若し、
カラコロカラコロ下駄音立てて、
石竹と臙脂で牡丹の花染め抜いた、
灯籠かかげて出かけましょうとも。
初出 蘭の会二○○七年一月月例詩「ボタン」
http://www.hiemalis.org/〜orchid/public/anthology/200701/
[グループ]
戻る 編 削 Point(5)