あの日、行方知れずの/霜天
滴が。
朝の、
窓枠を二つに分けるようにして落ちていく。
今も手を伸ばせば壊れてしまいそうな足跡。
遠くなっていく風景写真をいつも隣に置いている。
あの日、行方知れずの人が今も笑いかけるから、
靴紐を結ぶのにも、手間取ってしまう。
椅子に深く沈んで、傾いて覗く車窓。
静かに世界が遠ざかっていくのが見える。
遠くでほどけていく雲が、手を振るように、
行方知れず、は今日も単純で、突然に呼び出されて、
あの扉が開けばいい、とか、考えてしまう。
あの人は、いつも一つを探していて、
分かれた滴は一つに結び直すことが出来て。
夜が朝に続いていくように、
手を繋いで、
繋ぎ返されて。
いつもここにあるように、
語りかければ何処にもないような。
小説の隅に忘れられた栞がいつも呼んでいる。
あの日、行方知れずのままで今も、そればかりだから、
遠くなっていく自分が、車窓から降りていくのを、
椅子に深く沈んで、
傾いて、
見ている。
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