遠い鐘音/服部 剛
。祖母が作った鏡開き
の汁粉(しるこ)を食べていると突然電話機が鳴り出し、受話器
越しの上司は同僚の夫の急な他界を知らせた。
今夜、独りきりの闇に覆われている同僚について
または新しい命を身篭っている他の同僚について
足を踏み入れずに、立ち尽くしている私について
時計の針の回転が
速まってゆく日々のなかで
何かを置き去りにしてはいないか
瞳を閉じていないか
耳を塞いでいないか
( 誰かの遺言が綴られた
( 一枚の手紙
( 無風の闇にゆらめいて
( 夢の内に目覚めると
( 心の深淵に広がる宇宙
( 遥か遠い場所から響く鐘の音(ね)
( 今・世界の何処かで
( 途絶えた誰かの生命(いのち)
( 誕生した誰かの産声
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