じいさん/ごまたれ
ったんだよ。」
僕がそう言ったとたん、
じいさんのちっちゃな目が丸くなり
そして愉快そうに声を上げて笑う。
「お前さん、まだ人生の『じ』の字も歩いとらんわ」
カチンときて反論しようとしたら、
じいさんはビシっと
僕の顔の前に人差し指をたてた。
「今はまだ暗いトンネルなんじゃ。
そこを抜けたときの明るさぐらい、
お前も知ってるだろう。」
じいさんが遠のいてゆく。
やがて
眠るときのような闇が訪れた。
夢だったのかと思い、
僕はベッドから体を起こした。
でも 飲んだ薬の瓶は
蓋が外れたまま転がっている。
ポリポリと頭をかいた。
やがて
僕はぼんやりと思った。
確かに
僕は簡単に逃げ出す性格だ。
でも、
あのじいさんには
負けたくねぇなぁって。
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