蒼カビが生えたらさようなら/蒼木りん
 

柑橘を食べるときは死ぬ思い
わたしはいまでも
半分寝ぼけた世界にいるのだから
半分寝ぼけた世界にいたいのだから
それでも
進化することはあっても退化することはない
夜が好きで冬眠もする
人間であっても
人でないのもたくさんいる
人でないなら
わたしはなになのだ
降ることは降っても
積もるほどの
拘りも根性も不器用さもないのだ
あるいは
それを必要としない
あるいは
初めからない

夜が夜でなくなる雪明りを
しばらく見ていない
わたしはそこに
帰るべきなのかもしれない
閉ざされた
深雪の中
薪で焚いた風呂に浸かる
柚子を浮かべて
いつの時にいても
迷いが生まれる
この泡の粒のように
拭っても拭っても
ああ
いまわかった
わたしの前世は
たぶん
愛媛か宮崎か高知か静岡か和歌山かどっかの
みかんだ
蒼カビが生えたら
さようなら




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