饒舌に鳴く冬の夜。/もののあはれ
苦節六年程度の事であるが舌で鼻をほじる練習をしている。
厳しい道程ではあったのだが左穴はこなせる様になった。
しかし右穴が手強いのは顔面が左右対称ではない為か。
どうしても核心に迫る程にじり寄る事が出来ない状況だ。
しかも練習中に放つ奇天烈によじれあげた滑稽な顔面を
他者に度々見られてしまっているという気不味さもある為。
此処まで来たら是が非でも成功させねばならないのである。
練習中に眠ってしまい煙草の不始末でボヤを起こしもした。
目覚めた瞬間眼前に火柱が立上っていた光景は忘れない。
焦げた絨毯を拭いている内に夜が開け朝日を見た時には。
僕は生きていますと出張先の焦げ臭い借家で
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