産婦人科病棟/チアーヌ
きない
少しでも家に帰りたいと
言うけど
たぶん無理なんだろう
「これが終ったらハワイに行きたい」
と繰り返す彼女と
ハワイ話で時をダラダラと過ごす
あとはおいしいお取り寄せの話
おいしいものと
海外旅行の話でもしていなければ
とてもやっていられないんだろう
でも彼女は筋腫を抱え
命がけで8年ぶりに
胎内に宿った魂に
光を与えようと
しているのだ
同じ産婦人科病棟でも
普通分娩で産んだひとたちが
集まっているところは
全く雰囲気が違っていて
そこは
暖かな光と
雌の匂いと
産まれたての赤ん坊の
生臭い匂いが
充満している
まだ母親でない
わたしたちの病棟は
しんとして
胎児の言葉だけが
聞こえる
「もうすぐ出れるの?」(まだ、もう少し待っててね)
「ママ、ぼくまた来るよ」(そんなこと言わないで・・・)
「ぼく、なんだか苦しいんだ」(大変!お医者さんを呼ばなくちゃ)
昼も
夜も
9時に消灯だけど
みんなこっそり連続ドラマを見てる
おやつを食べながら
お腹を撫でながら
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