【500文字の本棚】軽(自動車)/ピッピ
彼は胸に大きな傷を負っていた。それは裂け目のように、胸から臍まで。
「二年前に、事故でね」と彼は微笑んだ。「大きな手術だった」
私がその傷に触れようとすると、彼は強く拒んだ。「何故?」と訊くと、「結婚したら教えてあげる」と言った。
それが彼のプロポーズだった。
それからすぐ私達は結婚して、初夜が訪れた。
上半身裸の彼は、「僕の胸に飛び込んでおいで」と微笑んだ。
私はその傷を負う胸に飛び込むと、瞬間、何らかの衝撃を受けて、目の前が真っ白になった。冷たい感触。頭上で彼が笑っている。
「自分でも初めて見た」と彼は言った。大きなエアバッグを得意げに揺らしながら。(273文字)
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