寝正月/佐野権太
 
具合はどう?
と問い掛けられても
よくわからないのだ
何か喉の奥につかえているようでもあり
ただ疲れているだけのようでもあり
それでいて急に、胸のあたりが苦しくなったりする

こうして
温かい手のひらを胸にあてて
家のことなど何も気にせず
幾日も天井の木目など無為に数えていると
とても重い病のような気もしてきて
つい少年のような心持ちになってしまう

何時間かおきに
ギシ、ギシ、と
階段をきしませる音がして
恐る恐る、襖が滑り
新鮮な空気と一緒に細く流れ込んでくる
 (具合はどう?
という君の声が
しだいに透きとおってくる
のは
よくわかる
から
自然に
あふれてしまう

それなのに
布団を被り直して
横を向いて
うん、とか、ああ、とか
愛想のない返事をしてしまう

ありがたい、と想う

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