午前十時のクリームシチュー/吉田ぐんじょう
たまねぎを刻むと涙が出る
それにかこつけて
少し本気で泣いてみる
そうして
矢張りわたしは
要らない子かも知れないと思う
だけど午前の台所は
悲劇ごっこをするには明るすぎるし
誰かを想うには静かすぎる
にんじんはまないたの上で
スペインの太陽みたいに笑う
余り陽気な色だから
切るときについ
笑い声をあげてしまう
大昔にもこうして多分
にんじんを
銀杏切りにしていたことを思い出す
じゃがいもの表面に
家みたいなものが生えていたので
包丁でざっくり切り捨てた
その家には毒がある
全ての家には毒がある
石油ストーブのにおいが鼻先をかすめる
鶏肉は
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