109番目の男/なかがわひろか
隣に座った
109番目の男
最後の番号を振り分けられた
私の隣で
じっと前を向いている
彼はどの煩悩の担当からも外された
「一緒にいても楽しくない」
他の煩悩担当者たちは
口をそろえてそう言う
「あんた、毎日何考えてるんだい?」
彼は答えない
と言うより
何も聞いていない
性欲や
眠欲や
食欲や
あと百いくつかの煩悩から外された彼は
何が楽しくて
日々を生きているのだろう
109番目の男は
もう
恋もしないし
眠らない
食べない
私の番号が呼ばれた
109番目の男は
変わらずじっと前を向いている
「あんたもあんたで大変なんだな」
私はそう一声かけて
煩悩の所へ行く
(「109番目の男」)
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