異国へ続くロッカー。/もののあはれ
 
ロッカーをガチャリと開いた。

『あ!』

僕は叫びそうになるのを辛うじて堪えた。
しかし先輩のロッカーの中は異国では無く。
ガラの悪い連中も勿論いない。
ごく普通のロッカーに戻っていた。

『いやあ久しぶりだなあ私服で帰るのは。』

先輩はニヤニヤと聞こえよがしに呟くと。
颯爽と着替えを終えロッカールームを後にした。

『そういうことか!』

僕の頭の中でグルグルと正解が導き出された。
何故先輩はあんなに嬉しそうに話しかけてきたのか。
何故ニヤニヤと聞こえよがしに着替える事を喜んだのか。
何故先輩は作業服で通勤しあえてロッカーを使わなかったのか。

『やられた。』

僕はすっかりロッカーの仕組みを理解した。
そしていずれ誰かが今日のお間抜けな僕の様に。
このロッカーを自分のロッカーと間違い。
開けてくれる日が来るものだろうかと。
あの恐ろしい連中を
自分のロッカーに引き寄せてくれるのだろうかと。
文字通りこうべをダラリと垂れながら。
異国へ続くロッカーを呆然と眺め。
夢想するより他に為す術は無かった。
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