心の在り処/白寿
 
した自身の如何ともしがたい冷酷さに触れるたび、
わたくしは孤独を思い知るのです。

鳩尾(みぞおち)に添えていた利き手が
ぐしゃりと胸襟を掴みました――。
そうして、自らの体幹を衝くと、
ただひとつ心臓を攫(つか)んで、
背中を真っ直ぐに抜けていったのです。
わたくしの背後に、真っ赤なあだ花を手向けたのは、
わたくしの意志のほかなりません。
垂れ下がった手首の向こう側に見つけた"心の在るべき処"へ、
わたくしの心が、今ようやく還っていきます。

脈動の間隔が、途方もない距離をもって
喉をせり上がる最期の瞬間、
わたくしはあなたに告白しましょう。
このあだ花が、惜しみなく愛を与え続けてくださったあなたへの、
せめてもの餞(はなむけ)であることを。

ああ・・・光を含んだ透明な鮮血が、床を濡らしていきます。
どうか、背後からわたくしを
そんなに優しく抱き竦めないでください。
わたくしはただ、このあだ花を
あなたに受け取っていただきたいだけなのですから・・・

 
 
(※)胸襟⇒心の中
(※)体幹⇒人間の胴
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