心の在り処/白寿
グスタフ・クリムト作 『接吻』には、
恋人の頬に背後から口づける男と
その愛撫に恍惚の表情を浮かべて応える
女の姿が描かれています。
他者を愛することのできないわたくしは、
これまで自己愛にのみ生きてきました。
男の前で見せる振る舞いの全ては、
『接吻』に描かれている女の真似事に過ぎません。
面に浮かべる恍惚は、掻き抱かれるべき存在であり得た
わたくし自身への賛歌であり、
閉じられた眼差しの向こうには
ただわたくしのみが映っているのです。
もはや、わたくしの胸襟(きょうきん)の何処を探ったとて、
愛すべき人の影を見出すことは、生涯叶わないでしょう。
そうした
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