幻/草野春心
 


  生まれ立ち上がり歩いて来た
  嘘ばかりついていた
  居留守と空き巣の日々だった
  魔法の鍵を手に入れた
  目を上げたら君が居た
  目を閉じたら苦しくなった
  目を開けても変わらなかった



  心の奥まで日焼けした
  甘やかで懐かしい 言葉の林を掻き分けた
  壊れない幻と会った
  そこは 夏の真ん中だった



  白黒の町が塗り絵になった
  沈黙の底で替え歌を聴いた
  一粒の記憶を 舌の上で転がし続けた
  あの季節は幻じゃない
  僕は確かに君と会った



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