逃亡者/松本 卓也
高速道の脇に広がる平野を
厳かに沈み行く太陽から
唸り声が聞こえるような
そんな錯覚を抱きながら
閉じかけの瞼を擦っていると
―もしこのまま眠りにつけば―
ふと過ぎる手招きの声を
苦笑いで掻き消して
掌に力を込めなおす
明日が今日に取って代わる
準備のための幕は下り
舞台裏で殺される昨日のように
頭の中で今日が消えていく
運送会社のトラックを追い抜き
背後から迫るスポーツカーの為に
慌てて車線を変更しなおす
先を急いでも何も待っていない
ただこのゲームを降りたいだけ
山間部に差し掛かる頃
遠くで断末の声が響いた
ダビングした自分の声のようで
押し殺していた心の死に様は
きっとこんなものなのだろう
夜は整然と更けていく
月はまだ 見えない
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