君と時効/鴫澤初音
 

 来春、君と結婚したい男が私にごめん、と言う。

 すまない、と繰りかえして言う言葉が頬を滑らかに這う。
 ずっと不思議に思っていた。私が、どうして君と繋がり合えなかったのか。
 胸を打つこの悲しみにも似た痛みをどうして私は
 抱えてこれからも歩いて、君の元へいかなければならないのか。
 
 君はどうしてメロドラマなんかを見てはその大切な涙を流して
 私をぬぐわなかったのか。
 
 溜息が伝っていく涙に変わっていく。
 生きていくことが私にどれほど向いていないのか、
 最初からわかっていたのは君だけだった。
 
 出会った初めから鼓動を聞いていたと思っていた。
 間違いなく生きたいと思っていたことが、
 手の隙間から零れていく。
 殺されたかった。

 痣も血も吐き出して、泣きたかった。
 悲しみをまるごと咽喉から吐き出して、
 
 君を抱き締めたかった。
 ずっと
 ずっと

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