水の中のこと/はるな
 

物心ついたころは、半分くらい本の中に住んでた。だって外はあついしさむいしうるさいし、はやく走れないし。それから少し成長して少女のころになると、本の中にはいられなくなって、窓をのぞくみたいに本の世界をながめるようになった。そしてわたしは水の中にいた。

水の中にいたと思う。灰色のあたたかい部屋も持っていた。それらを遠く思い出す、なんであんなふうなところで過ごしていられたのかな。どこかへ行きたくて、どこへも行けるわけないと思っていた。おそらく多くの少女がそう思っているように。

それではたちくらいの時にうまく息が吸えるようになって、だんだん自分にも何かをすることが可能なのだ、と思う瞬間を持てるようになった。でも(今にして思えば)、しばらく水の中にいたものだから、ものを見るのがへただった。だから、今でも来た道を戻れない。


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