メモ1/由比良 倖
1.1
脳の奥にいつまでも残る風景。この上なく優しくて、これ以上無いくらい、大切な景色。秋の生暖かい涼しさが部屋の中まで浸み入ってきて、全身を包む。とげとげしい、狂った秒針が僕の中で震える。手の付けようのないほど散らかった部屋を眺め回すだけで、体内時計がぐるぐると狂っていくような感じがする。今から一体何を始めたらいいか分からない。『Zen & The Art of Motorcycle Maintenance』という本を読んでいる。英語が分からないので、ゆっくりと。辞書を引きながら。
……汚れひとつなく澄んだ水溜まりのような景色がある。……僕は泣き虫かもしれない。すぐ泣く人は頭が悪い可
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