読むことのスリル──ひだかたけし小論(1)/朧月夜
 
はじめに……時間について


 秋の夜長です。こんな夜には美味しいアップルティーでもほしい……と思うのは、贅沢なのでしょうね。というのは、わたしは今、一人の詩人の批評という仕事を任されているからです。かつて、批評家の小林秀雄は言いました──一人の生きた詩人と接するのはどんなに辛いことだろうか──と。もちろん、この言葉は彼が書いた一字一句そのままではありません。わたしは、身近に本を置かなくなって以来、正確な引用、というのをあえてしずに来ました。情報過多なこの時代、正確な引用とは、何を意味するものでしょうか。典拠でしょうか、エビデンスでしょうか。世の中では、「脱真実」ということも叫ばれて
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