M君/道草次郎
 
世の中にはたぶん腐れ縁というものがあって、ぼくにしても、そうした抗することのできない不思議な力の命ずるままにこんにちまで生きてきたと言っても嘘ではない気がする。



ぼくには大学時代からの友達が一人いた。同郷のM君である。M君はたぶん精神を病んでいた。M君は明らかに父親との確執に悩んでいたし、子供のころに学校で味わった嫌な思い出にずっと苛まれ続けていた。たびたびM君は幼稚園や小学校のころの自分が体験したことを、あたかも昨日体験したようにぼくに話した。ぼくはいつもそれを黙って聞いていたが、そんな話を聞くのはたぶんぼくだけで、彼としてもそんなぼくという存在が必要ではあったらしく、二人の関係は
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