山国の車窓より 〜中央線沿線/道草次郎
 
{引用=*《明科》

山間(やまあい)にある明科という名の小さな駅から、ぼくは下りの電車に乗った。よく知っている場所のよく知らない駅だった。それは梅雨入り前のことで、水害やそれに伴う中央線の運休とはまだ縁のない季節のことだった。

その子をチャイルドシートに座らせたぼくは、妻と自分のために飲み物を買って来ようと駐車場の隅にある自動販売機へと足を踏み出そうとしていた。その時、いきなりポケットの電話が鳴った。ぼくはほとんど反射的にその電話を切ってしまった。それを見た妻は何も言わず、しばらくすると子供をあやしにかかった。

ぼくはザクザクと音を立てながら駐車
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