月の下、ふたつの孤独/ホロウ・シカエルボク
 

 周辺の木々が溶け込んでいるせいで、夜の闇は微かなグラデーションを描いていた。かつては堅牢だっただろう鉄の門は、血を被ったみたいに赤く錆びて、左側は門柱に繋がる可動部分のところから壊れて落ちていた。その奥に続く上り坂は、四方八方に伸びた草が作り出すトンネルに覆われてどこまで続いているのか判らなかった。小さなマグライトで辺りを照らしてみたが、それがどんなものの入口なのか教えてくれるものはなにもなかった。いつもならそこで引き返していただろう。でもその時の俺はなにか、そのまま帰りたくない気分だった。二年前から突然始まった不眠、夜を凌ぐための散策にもそろそろ飽きていた。このあたりで少し、気分を上げてく
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