メモ/はるな
金魚がうちにきたとき、はやく死なないかなとおもった。
かならず金魚は死ぬので(わたしよりはやく、それはほとんど確かに訪れる)、早いほうが良いようにおもえたし、単純に生きてるものが、夫と娘と自分以外の生きているものが、うちにいるのがおそろしく感じられた。金魚はなにもわるくないのにね。
発熱した手足で豆を煮る。自分が生きていることが世界にとって不当なことであるという毛布みたいな呪いがなくなると、かなり身軽で、すこしさむい。ああ、娘は。四歳のからだで四年分の息を吐いている。娘を数えることは、自分の数を数えるよりも心安い。健やかで軽やかな数はまだ手のひらに乗るから、錯覚してしまう。自分がそれを理解し、所有できると。
金魚はちいさな水槽で飼うとちいさく、おおきな水槽で飼うとおおきくなるのだという。そういうのはぞっとするのだ。コンクリートのなかのそのまたちいさな部屋の片隅で、いくら澄んだ水のなかで泳がせても悪いことをしているような気持がする。
戻る 編 削 Point(3)