ムーランルージュのふたり/そらの珊瑚
 
 パリ、モンマルトルの享楽街の中でも、ひときわ輝く大きな劇場があった。
 名を『ムーランルージュ』という。

 彼らはそこで活躍する芸人だった。
「ねえジャン、あたしたちがコンビを組んでもう何年になるかしら?」
「五年、いや六年くらいじゃないか?」
「月日は知らないうちに経ってしまうものね。目尻のこのしわを見て。ああ、このままじゃあたし、あっという間におばあちゃんよ」
 そう言ってマリアはため息をついた。彼女が手にしていた小さな手鏡がうっすら曇る。ジャンはマリアに寄り添い、肩を抱く。
「鏡なんて見るなよ。キミは人形。永遠に年をとらない」
「嫌な人。それはお芝居の中だけよ」

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