ジャンヌ・ダルクの築いたお城 蛸/田中修子
おととい、あるいてほどなくある実家の父に「婚姻届けのサインをもらいにいっていい?」と電話をした。「いま、選挙期間中だから忙しい」私は黙った。それで、父は慌てて「時間がある今日中にサインしにゆく」「ありがとう」私は笑顔でいった。それで電話を切って泣いた。私は会ったらなにをしてなにをいうかわからなかったから、婚約者に出てサインをもらってもらった。やはり私は活動の次の存在だった。母が死んだことでだいぶ順位はあがったが、そんなことはもうどうでもいい。今日私はあの家から解放される。
母は数年前の11月28日に死んでくれた。何年に何歳で亡くなったのかは忘れた。そのうちに思い出すこともあるだろう。
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