インフルエンザに罹る/ららばい
数年ぶりに泥のように寝た。幼い頃はよく熱を出した。その度に母にせがんで何度も熱を測った。私は体温計が好きだった。ガラス製で冷やりとしていて、何よりも、中に収まっている銀色の液体はとても美しく危なげで魅力的だった。母はそれは水銀だから毒なのだ、下手したら死んでしまうのだ、と言った。綺麗なのに毒だなんて、それは寧ろ世の常ではあるのだが、幼い私にとってはそれこそ相反する感じがして興奮した。それからは熱を測る度に、熱が上がり切って銀色の液体が体温計の外に飛び出してしまわないかとぞくぞくとした。
あの日、父は私が眠った頃を見計らって私の額に手を当てに来た。父の手はかさついていて、しかし柔らかく冷
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