てんちゃんのこと/はるな
 

10年ぶりにはいったコーヒースタンドの角からひとつずれたところに座ってるてんちゃんはもう?せぎすじゃなくて、なんかふつうの男のひとにみえた。
足音をさせて近くまで行ってもふりむかないのはまえと同じでほっとしたけど、あんまり同じような角度で笑って「さむいね」なんていうからよく分からなくなった。
「そんなに寒くはない」
実際きょうは丸いような陽だまりに満ちていて、春みたいな日なのだ。マフラーやコートを腕にはさんで歩く人が目につく。
10年は色々な物事が変わるには十分な時間だし、でもまるっきり別ものになるには少し短い。結局わたしたちは10年まえと同じように黙りこくって、座っている。薄くて熱い
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