遠い日の物語/薫子
今日は、なんとなく或る風景を思い出した。
昔の早朝の特急にのる私は白いワンピースを着ていた。
初夏独特の早朝の日差しの中で、風はまだ涼やかで、乗る人もまばらな博多行き特急。
出発間際に五人の若い男性たちが楽器のケースを抱えながら乗り込んできた。
連結の扉のところから五人はこちらを見ながら何か話していたが、そのうちの一人の男性が私の隣に座っても良いかと話しかけてきた。
どうぞと言うと、彼は同乗の仲間のところにもどり、バイオリンのケースを手にもどってきた。「バイオリンですか?」何気なく聞くと、彼は満面の笑みを浮かべ、「そうです!そうです!」と答えて、名刺を出して私に
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