排気ガス、五十音表、あぶら/はるな
あなたは夏のひとだった。雨のない笑顔をしてわたしを不安にさせる。長い手足をなめらかに泳がせて、いつもすがすがしく気持ちをかきまわしてくれたのだ。いつぞやのモーテルは名前だけ変えて、その窓の多くに過去を持っている。開けられるべきではないそれらをかんたんに開いて、排気ガスをまるでいいものみたいに吸い込んでいた。
五十音表の、(あるいはアルファベット表の)、文字ひとつひとつに紐をつけて―「あ」には「あわれ」、「い」には「痛い」、「う」には「うれしい」などと―眺める。しだいにそれはたんなる表ではなくなって―あなたを思い出すたびにもともとある以上の深みに落ちていくのと同じで―、あわれで、痛い、うれしい
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