【 箱の中の呟き 】/泡沫恋歌
大きな木の箱から、何やら呟きが聴こえてくる。
「あぁー、もうそろそろ春になったのかしら?」
溜息交じりの女の声、どこか気だるく寝むそうだ。
年に一度、このカビ臭い箱から私はやっと出して貰える。
真っ暗な箱の中ではずっと眠っている。いいえ、寝た振りをしているだけで、時々、薄目を開けて周りを見回しているけど……ただ真っ暗闇で何も見えない。「こんなの退屈過ぎて気が変になりそう!」だから、また寝た振りをする。――そうすると、その内、冬眠状態に入る。
何のために存在しているのか分からないけれど、一年に一度の行事のために……、その日を美しく彩るために私は作られた。
それ
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