駅構内の、/吉田ぐんじょう

座るところが空いていなくて
仕方なくしゃがんだ
光る突起をさわれば
流れるみたいだ
壁一面に十一桁ずつの
番号が書いてあって
お呪いかと思ったらそれは
悪戯なのだった
なめくじが這ったみたいに淡い筆致だ
手をついた所為で
頭脳線の辺りに
090
がうつってしまった
払っても落ちない
このまま皮膚から吸収されて
血液中に090が溶けてしまったらどうしよう
すこし泣いた
害毒そのもの
と云う色の石鹸は
意に反して
いいにおいがする
濡らした手で髪を撫でて
何となく悄然としてしまう
世界中がこんなだったら
戦争なんて起こらない筈なのにな
とか
考えながら
ぱたぱたと歩いて改札を抜けた
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