突然短歌/平瀬たかのり
 
 
 十六の胸で炸裂せし「檸檬」褪せぬ果汁よ残りし種よ

 図書室で恋うちあけし汝(な)の弾いた合唱祭のピアノ忘れじ

 「もうひとつ恋終わったの」と告げられし十七の残酷はいまだに

 文弱の徒でまだいると初恋のひとに告げたき夜の苦笑い

 判るのは北斗オリオンだけなれど万光年の下に吾(あ)は立つ

 ひとの吾の恨みつらみを書くと決めブルーハーツの「青空」聴けり

 今日買った作業ズボンを履いて往く明日はきっと新しい朝

 当番の便所掃除に残されし糞便よ聴け我がメーデー歌

 汁かけの飯にたくあんバリボリと今日生きた音明日生きる音

 具志堅のパンチ一撃日曜日宿題もせず僕は少年

 午後十時レンチン飯にマヨネハム喰らうあなたと朋になりたし

 もう逢わぬもう逢えぬひと増えて途上に果てに吾もそう成りて

 侮(かい)の字は心の毎(つね)と成る我の三十一文字はバラッドと成れ



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