影絵/後期
影絵は遊戯ではない。それは夜が自分の来歴を語るために用意した、沈黙の劇場である。
私は障子の前に手をかざす。すると五本の指はたちまち骨ばった枝となり、枝先には名もない鳥が止まる。鳥は鳴かない。ただ嘴を開き、そこから私の幼い頃の夕暮れが零れ落ちる。土間の匂い、欠けた茶碗、誰かの呼びかける声。いずれも実体を失い、影となることで、かえって鮮明に蘇るのであった。
不思議なことに、影絵の中では時間が裏返る。まだ起きていない出来事が、すでに懐かしい顔をして現れ、過ぎ去ったはずの人々が、これから訪れる別れの予感を携えて立っている。私はそれらを追い払うことも、抱き留めることもできず、ただ薄紙一枚を隔てて見守るしかない。
やがて灯が弱まり、影は溶けるように崩れてゆく。しかし完全には消えない。闇の奥に退いた影たちは、次に光が差す瞬間を待ちながら、静かに形を練り直しているのだ。私はそれを知っている。だから眠りにつく前、目を閉じると、まぶたの裏で影絵が始まる。そこでは私自身もまた、誰かの手によって操られる、頼りない影の一つにすぎないのである。
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