野いちご/歌留多カタリ
 
きみは野いちごをひと粒ほうばる
ぼくの喉の奧の海底で塞がったままの洞窟に
ためておいた雨の音を聞きながら
きみは野いちごをひと粒のみこむ

悲しみなど知らないふりをして
今日、夕刻に買ってきた大根の葉をかじりながら
そのとき悲しみの耳朶は
海底の砂に埋もれた野いちごの泣き声を聞くのだろう

それは耳の形をした悲しみをくぐり抜けた塔の
傾いていく夜空にひろがるひまわりの向日性より
ふたたびぼくの喉の奧の蒼い海に帰還する船のマストの
てっぺんを見上げるときにも生まれてくるものだろうか

遠い水平線まで僕をいざなう真っ白い午後の曳航に
呼び戻される洞窟のとびらから
やがて涙のようにあふれだす
野いちごのすっぱい唾液の襞からかすかに聞こえてくる
春雷のように
いなくなってしまった母の声のようにやさしく

※私事ですが、今日午後、義母が八九歳でなくなりました

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