唐揚げ/たもつ
 


唐揚げ
給食の時間に落とした
楽しみにしていたのに
落としてしまって
それから
見つからない
唐揚げが
見つからない
たぶん
記憶と記憶の隙間に
落としてしまった
先生も友達も
探してくれた
でも見つからないまま
みんなも隙間に
落ちてしまって
それ以来
見つからない
その夜、母は
帰ってこなかった
テーブルの上に
書置きと
唐揚げを残して
それからずっと
帰ってこなかった
母も隙間に
落ちてしまった
だから父も
最初から
存在がなかった
ご飯は
自分で炊いた
母が残した拙い字
隣に
唐揚げを一つ
残しておいた
ご飯も一杯
残しておいた
隙間を探した
けれど自分が落ちていく
隙間などなかった
その夜は
夢を見ようと思った
父も母も唐揚げも
出てこない
思い出すだけで
胸が温かくなるような
そんな夢を
見ようと思った


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