赤い傘/
花形新次
私達の冷え切った心には
いくつもの氷柱が立っていて
この夏の暑さでさえ
決して溶かすことが出来ない
地下鉄の中で
赤い傘を差した女が
「触らないで!」
と金切り声を上げている
ああ、女よ、狂いたいのは
お前だけじゃないんだ
みんな正気でいることに
疲れ果てているのに
何故お前一人が
狂人として振る舞うのを
許されて良いのだ
女は表参道で降りると
傘をたたんで改札に向かって
消えて行った
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